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P‐LOG ホワイト編

#5
すでに日は傾いている。スズシロはチェレンとベルの姿を見つけた。
「チェレーン!ベルー!」

「どう?スズシロ。どちらがたくさんのポケモンを連れているか比べる?」
「もちろん!」
スズシロはバッグからモンスターボールを出した。ブレイブ(ミジュマル♂)とヨーテリー(♀)のの2個だ。
「スズシロが今連れ歩いているポケモンの数は……2匹ね!」
2人も出した。同じく2個だ。
「あたしたち、みんなお揃いだね」
「同率1位か。まあ、お互い宣言どおりだよね」
「ちなみに、ポケモン図鑑をチェックすれば、今までに見つけたポケモンの数や捕まえた数がわかる。じゃあ、カラクサタウンに行くよ。博士が待ってる」
3人が手首につけているライブキャスターが一斉に鳴った。
「博士からだ」
サブディスプレイを引き出すと、メインと合わせて4人の顔が表示された。
『ハーイ!みんな元気?そろそろポケモンと仲よくなったころでしょ!』
ベルがボタンを押し、話す。
「あっ、博士!」
『今、カラクサタウンのポケモンセンターにいるの!案内してあげるから、みんな早くおいでよ!』
「わかりました!ポケモンセンターですね!」
『オッケイ!それじゃーねー!』
通話を終了する。
「……だってさ。じゃ、先に行くよ」
「待ってよ!」
チェレンはさっさと歩き出し、ベルとスズシロが追う。街が見えてきた。

『カラクサタウン 生い茂るつるは繁栄の証』
山を切り開いて造られた街は起伏に富んでいる。規模はカノコタウンよりも大きく、やや高い建物もある。
赤い屋根のガラス張りの建物の前で、アララギ博士が手を振っている。ポケモンとトレーナーのケアを行う総合施設・ポケモンセンターだ。チェレンは博士と話して外で待ち、ベルは中に入る。スズシロはチェレンに聞いた。
「チェレンは行かないの?」
僕はいいんだよ。ポケモンセンターのこと、知っているし。それより早く戦いたいよ!強くなるには実戦が一番さ!」
「そう」

「博士、お待たせしました!」
「ハーイ!スズシロ!!ポケモンと共に道をゆく!これがトレーナーの喜びだよね。ということで!トレーナーにとって一番大事な場所を教えるから、ついてきてね!」
「はい!」

自動ドアが開く。1・2階は吹き抜けになっており、開放感がある。
「ここがポケモンセンター!なんとなく落ち着くでしょ?それでは案内しまーす!」
正面の赤いカウンターへ。若い女の係員がいる。
「あっ、あたしも!」
周りを見回していたベルがあわてて駆け寄る。
「ポケモンセンターのすごいところ!それはなんと!ポケモンの回復ができること!しかもタダなの!トレーナーの味方だよねー!ほら、スズシロもポケモンの回復をしてみて!」
「はい!」
スズシロは係員に声をかけた。
「こんにちは!」
「お疲れさまです!ポケモンセンターです。ここではポケモンの体力回復をします。あなたのポケモンを休ませてあげますか?」「お願いします!」
係員は穴が6つ開いた六角形のトレイを出した。モンスターボールを乗せる。
「それではお預かりいたします!」
係員はトレイを後ろの回復装置にセットしてカバーを閉め、スイッチを入れた。ボールにエネルギーが流れ込み、30秒ほどでカバーが開く。業務用はパワーが違う。係員がトレイを持ってきた。
「お待ちどおさま!お預かりしたポケモンは、みんな元気になりましたよ!」
ボールを取る。
「ありがとうございました!」
「またのご利用をお待ちしてます!」
「オーケイ!ポケモン元気になったわね!じゃ、次はポケモンセンターのパソコンについて説明でーす!」

カウンター左のパソコンへ。トレーナーカードの挿入口とモンスターボールの出入口がついており、ディスプレイには誰かのパソコン・自分のパソコン・博士のパソコン・ヘルプの4つが表示されている。
「これはパソコン!トレーナーなら誰でも使えるの。連れているポケモンを預けたり、逆にパソコンに預けているポケモンを引き出せるわ。ちなみに、ポケモンを6匹連れているときに新しく捕まえたポケモンは、自動的にパソコンに送られるのよ!素晴らしいでしょ!びっくりでしょ!あと、博士のパソコンを選べば、私が図鑑評価しまーす!」
ベルが手を挙げた。
「博士……画面の『誰かのパソコン』って、誰のパソコンのこと……?」
「まぁ、ベル!よく気づいたわね!すっごくいい質問よ。と言いたいところだけど、今は気にせず使えばいいわ!誰かというのはパソコンでのポケモン預かりシステムを作った人のことでね、君たちもいつか出会うわよ!じゃ、次ね!」

右手の青いカウンターへ。若い男の店員がいる。
「こちらはフレンドリィショップ!役立つ道具を買ったり、いらなくなった道具を売ったりできるの!お兄さんが笑顔で対応してくれるわよ!さてとっ!これで君たちにトレーナーの基礎の基礎は教えたわね!それでは、私はカノコタウンに戻ります」
「博士、ありがとうございました!」
「最後に1つ!サンヨウシティに行ったなら、発明家のマコモに会いなさい。私の古くからの友達で、冒険を手助けしてくれるわ。それではがんばって!君たちの旅が実り多いものでありますように!」
「ありがとうございました!お気をつけて!」
アララギ博士は帰っていった。


2人はフレンドリィショップの前で悩んでいた。
「何買おうかなあ。やっぱり、傷薬とかモンスターボール大事だよねえ」
「モンスターボールは200円、傷薬は300円。両方買っといたほうがいいよね。決めた!」
スズシロがカウンターに向かう。
「いらっしゃいませ!ようこそ!お買い物ですね?」
「はい!」
トレーナーカードには電子マネーの機能がついている。レジの端末にタッチすると、残高は4000円と表示された。元は3000円だったのが、ベルとチェレンとのポケモン勝負の賞金1000円が振り込まれていたのだ。スズシロは後ろのベルをちらりと見た。
ということは、ベルは500円引かれてるのか。ちょっと気まずい……
「えーと、モンスターボールを5個、それから傷薬を3個ください!レジ袋はいりません」
金額を確認して代金を支払い、商品を受け取る。
「はいどうぞ。毎度ありがとうございます。その他に私どもで何かお力になれることは?」
「これで全部です。ありがとうございました!」
「またどうぞ!」
スズシロは戻ってきた。
「買った買った!……ベル?」
ベルはまだ悩んでいる。

そのころ、街と道路をつなぐゲートに立ち塞がる者たちがいた。
「ちょっと……今準備中なんです。もうしばらくお待ちください」
「皆様……これから大事なお話をします。もうしばらくお待ちください」

ポケモン図鑑 見つけた数 5匹/捕まえた数 2匹  おこづかい 2100円  プレイ時間 2:53



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#6
「じゃあねー!」
ベルはポケモンセンターを出ていった。さっそくポケモンを育てるのだという。やる気いっぱいだ。

スズシロはブレイブとヨーテリーをボールから出した。ヨーテリーはスズシロに駆け寄り、嬉しそうにしっぽを振った。
「あはは、よしよし!」
「キャンキャン!」
「ブレイブ、なんて言ってるの?」
「さっぱりわからん」
「なんでわかんないの?君、ポケモンだよね?」
「種族が違えば言葉も違う。人間だって、国が変われば言葉も変わるだろ?」
「そういわれればそうか」
2匹を戻す。パソコンにトレーナーカードを入れ、ヘルプのポケモンの基礎知識のページを見てみる。結構な量がある。
「こんなにたくさん……覚えるの、大変そう……」

ひとまず外に出る。街灯がともり、家々の窓には明かりがついている。もうすっかり夜だ。
「なんか広場で始まるらしいぞ!」
「んじゃ、ちょいと行ってみるかね」
男たちは歩いていった。
「なんだろ……?」


広場に人だかりができている。ペールブルーのフードをかぶった集団が横一列に並び、左右に旗を掲げている。そのシンボルマークは、左半分が白、右半分が黒の盾に、「P」「Z」の青い文字を重ねたものだ。
「……間違いない!悪い奴らだ!!」
スズシロは足を速めながらモンスターボールを取り出した。中のブレイブが聞く。
「7人、いや、8人か。何者なんだ?」
「知らない」
「なんだと!?じゃあ、なぜ悪人だとわかる?」
「勘!」
「よせえっ!!」
「スズシロ、こっちに来なよ」
「チェレン!」
人々の中にいたチェレンがスズシロを呼び止めた。
強力なライトがたかれ、人々はまぶしさに顔を覆い、目を細めた。フードの集団の後ろから大きな影が現れた。波打った銀髪を長く垂らし、皮製の肩飾りをつけ、左側がバイオレット、右側がアンバーの目玉の模様が描かれた法服をまとっている。左目は鋭く光り、右目は赤い片眼鏡が覆う。恐ろしげな壮年の男だ。

「ワタクシはゲーチス。プラズマ団のゲーチスです。今日皆さんにお話しするのは、ポケモンを自由にしましょう、ということです」
「えっ?」 「なに?」
「我々人間はポケモンと一緒に暮らしてきました。お互いを求め合い、必要とし合うパートナー。そう思っておられる人ばかりでしょう。ですが、本当にそうなのでしょうか?我々人間がそう思い込んでいるだけ……そんな風に考えたことはありませんか?」
男は右に左に歩き、話し続ける。
「トレーナーはポケモンに好き勝手命令している……仕事のパートナーとしてもこき使っている……そんなことはないと、誰がはっきりと言い切れるのでしょうか」
「ドキ!」 「わからんよ」 「そんな」
人々がざわつく。
「いいですか、皆さん。ポケモンは人間とは異なり、未知の可能性を秘めた生き物なのです。我々が学ぶべきところを数多く持つ存在なのです。そんなポケモンたちに対し、ワタクシたち人間がすべきことは何でしょうか?」
「なあに?」 「解放?」
「そうです!ポケモンを自由にすることです!!そうしてこそ、人間とポケモンは初めて対等になれるのです。皆さん、ポケモンと正しく付き合うためにどうすべきか、よく考えてください。というところで、ワタクシ、ゲーチスの話を終わらせていただきます。ご清聴感謝いたします」

フードの集団はライトを片づけ、旗をたたむと、男を中心に整然と隊列を組み、去っていった。
「今の話……わしたちはどうすればいいんだ?」
「ポケモンを解放って、そんな話ありえないでしょ!」
人々は困惑しつつも散っていき、広場には3人だけが残された。


チェレンは思索をめぐらしている。スズシロはブレイブに言った。
「攻撃してれば、きっとしっぽを出してた」
「いや、あれだけの人の目の前だ。連中も表立って悪評を立てるようなことはすまい。ああいう演説をぶっているうちはな……俺もうさん臭いものは感じる。まずは正体を見極めるんだ」
「でも……」

「キミのポケモン、今話していたよね……」

いつからそこにいたのだろう、少年は口早にささやいた。背はスズシロより頭一つ高い。黒とグレーのキャップから癖のある銀髪が飛び出し、束ねた後ろ髪は背中まで伸びている。黒い七分袖のカットソーに白い五分袖のシャツを重ね、ベージュのパンツをはいている。首にペンダント、両手首にブレスレットをつけ、腰からキューブパズルを下げている。
「なに……?」
チェレンが割って入る。
「……ずいぶんと早口なんだな。それに、ポケモンが話した……だって?おかしなことを言うね」
「ああ、話しているよ。そうか、キミたちにも聴こえないのか……かわいそうに……」
ブレイブの声が聞こえる人が、私の他にもいる?
「ボクの名前はN(エヌ)」
「……僕はチェレン、こちらはスズシロ。頼まれて、ポケモン図鑑を完成させるための旅に出たところ。もっとも、僕の目標はチャンピオンだけど」
「ポケモン図鑑ね……そのために数多くのポケモンをモンスターボールに閉じ込めるんだ。ボクもトレーナーだが、いつも疑問に思う。ポケモンはそれでシアワセなのかって」
「!」
少年がスズシロに顔を近づけた。凍てつくような薄い青の瞳に、スズシロは寒気を覚えた。
「そうだね、スズシロだったか。キミのポケモンの声をもっと聴かせてもらおう!」
ブレイブが言う。
「得体の知れない感じがする。気をつけろ、スズシロ!」
「うん!」

少年はモンスターボールを顔の前に持ち、つかの間目を閉じる。そして腕を伸ばし、開いた。
「ニャアッ!」
チョロネコ♂Lv.7。細身の猫のような姿で、体毛は紫とクリーム、目の上がピンク色をしている。スズシロはブレイブを出した。
「ブレイブ、水鉄砲!」
「おお「ニャアーッ!!」
素早く間合いを詰めたチョロネコが鳴き声を発し、ブレイブの攻撃が下がった。ブレイブは水鉄砲を放つ。
「速い!」
「大丈夫だ。攻撃を下げられようが、水鉄砲には関係ない」
「もっと!キミのポケモンの声を聴かせてくれ!」
チョロネコはすれ違いざまに爪で引っかき、ブレイブは的確に水鉄砲を命中させる。ブレイブに比べ、チョロネコのダメージははるかに大きい。3発目の水鉄砲でチョロネコが倒れた。ブレイブはLv.8になった。
「……Nとかいったな。俺はボールの中も悪くないと思っている。いつもスズシロのそばにいられるからな」
「ブレイブ……!」
「そんなことを言うポケモンがいるのか……!?」

少年はチョロネコをボールに戻し、それをぐっと握りしめた。
「モンスターボールに閉じ込められている限り……ポケモンは完全な存在にはなれない。ボクはポケモンというトモダチのため世界を変えねばならない」
少年は闇の中へと消えていった。

「……おかしな奴。だけど、気にしないでいいよ。トレーナーとポケモンは、お互い助け合っている!」
「うん」
「じゃあ、僕は先に行く。次の街……サンヨウシティのジムリーダーと戦いたいんだ。君もジムリーダーと、どんどん戦いなよ。トレーナーが強くなるには、各地にいるジムリーダーと勝負するのが一番だからね」
「わかった。気をつけてね、チェレン!」
チェレンは歩いていった。


「ベルもチェレンも行っちゃった。今度こそ、ほんとの一人旅か……」
「いるじゃないか。俺たちがさ」
「うん!……おなかすいちゃった。みんな、ご飯にしよっ!」
足取りも軽く、駆けていく。スズシロの長い1日が終わった。

ポケモン図鑑 見つけた数 6匹/捕まえた数 2匹  おこづかい 2800円  プレイ時間 3:23



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#7
ポケモンセンターはポケモンとトレーナーのケアを行う総合施設である。国が設置・運営し、無償で提供されるのはポケモンの回復サービスにとどまらない。
食事――「おいしい!素朴だけど、手堅い味だよね」 「キャン!」 「俺はもうちょっとスパイスが効いているほうが」
入浴――「気持ちいい……」 「キャウ……」 「俺は後かよ!」
宿泊――「…………」 「……」 「こいつ、なんてひどい寝相なんだ!……いてっ!」
イッシュの夜はふけていく。

翌朝。スズシロはポケモンセンターを後にした。
「よーし。サンヨウシティに向けて、出発!!」
「待て待て。その前に、この街で情報を集めるんだ。人に話を聞けば、思いがけない有用な情報が得られることがある」
「めんどくさいよ」
「そう言うな。人とポケモンの話は聞くもんだぞ」


通りを歩き、建物を訪ね、街の人に話を聞いて回る。
スタジオでミュージシャンに。
「あたくしの好きな曲、弾いてあげましょうか?」
「お願いします!」
「ウフフ……では、聞いてくださいね」
ピアニストはピアノを弾き始めた。
「ドラム聴いてみる?」
「はい!」
「俺のっ!心臓がっ!ビートを刻む限り!ドラムを叩き!続けるっ!!」
ドラマーはドラムを叩き始めた。ピアノとドラムが混じり合い、心地よいリズムを刻む。

マンションで若い夫婦に。
「ある人は言いました。いろんな考えがあるから争いが生まれるのだと……別の人は言いました。いろんな考えがあるから世界が広がるのだと……きっと、どちらも正解なのね」
「僕たち結婚したばかりだけど、本当に女と男って全然違うよね。ポケモンの♀と♂はそんなに違わない気がするけど……」
「結婚って大変なんですね」
「この女が変わっているだけだと思うぞ」

男児に。
「せかいをみちびくえいゆうのもと、そのポケモンすがたをあらわし、えいゆうのたすけとなる……イッシュちほうのおはなしだよ!」
「ふむふむ。要するに、世界を導く英雄というのが私だから、そのポケモンというのは…………」
「なんだ!?」

親子に。
「これは昔手に入れたモンスターボールだが、君にあげようではないか」
「ありがとうございます!」
男からモンスターボールをもらった。
「モンスターボールがないと、ポケモンは捕まえられない!いろんなモンスターボールがあるから、うまく使い分けなさいよ」
女児が言った。
「ねえねえ、ポケモンじゃんけんしようよ!」
「うん、いいよ!」
「じゃあ、いくよ!ポケモンじゃんけん、いっせーの……」
「みず」 「くさ」
スズシロは水を表すグー、女児は草を表すパーを出した。
「あなたがみずで、あたしはくさ……みずタイプはくさタイプによわい!ということで、あたしのかち!」
「負けちゃった」

「今度こそ、出発!」
スズシロはタウンマップを開いた。2番道路を道なりに北へ行けばいいようだ。街と道路をつなぐゲートに入る。
「こんにちは、トレーナーさん。ここは旅人のためのゲート!電光掲示板をよろしくね!」
案内係が言った。壁面に設置された電光掲示板にはニュースや天気予報が文字で流れ、下のディスプレイには関連した映像が映る。
「サンヨウジムは勝負と食事を楽しめるレストランです、か。面白そう!」


ゲートを抜け、2番道路に入る。森の中を通る緑豊かな道だ。ライブキャスターが鳴った。
「ママ!」
『スズシロ!ママです。そっちはどう?ポケモンと仲よくなって、旅の楽しさを噛みしめているころかしら?』
「うん!ポケモンも2匹になったし、勝負もしたし」
『ちょっと用があって連絡したんだけど、一度ライブキャスターを切るわね』
「わかった」

「スズシロ」
スズシロは背後からの声に振り向く。そこには母が立っていた。大きな紙袋を提げている。
「ママ……!」
「やっと追いついた……もうここまで来たのね。『おそらく、今ごろはサンヨウシティに向かってます』って、アララギ博士に聞いてね」
「そうだったんだ」
「で、ママからまたプレゼント!スズシロ!これを履いていきなさい」
母は紙袋から箱を出した。開けてみる。新しいブーツだ。甲に「B」のロゴが入ったボタンがついている。
「これって、ランニングシューズの『爆足』!?欲しかったの、ありがとう!!」
さっそく履き替える。
「ランニングシューズを履いていれば、どこに行くのもあっという間!では、取扱説明書を読むから聞いてなさいね。『ランニングシューズはBボタンを押すことで、今までより速く走れるようになります!ランニングシューズを履いて思いっきり走りまくろう!』ですって。買ったまましまっておいたのを、片づけをしていて見つけたの……たまには片づけもするものね」
「試してみるね……爆足!!」
ボタンを押し、地面を蹴り出す。スズシロの体が前へと跳ね飛んだ。パワーアシスト機能により、跳躍力が2倍になったのだ。スズシロは加速を続け、突き当りで急転回し、戻ってきた。グリップ力も申し分ない。
「うん、いい感じ!」
「スズシロ、あなたは独りじゃないの。わかっているでしょ?いつもポケモンといっしょだし、友達もいる。それに、ママだっていつもあなたのことを思っているから」
「うん!!」
「それじゃあ、旅を楽しんでね!」
「うん!帰り、気をつけてね!」
スズシロは母を笑顔で見送った。

ポケモンのいそうな草むらがある。スズシロは草をかき分け、ポケモンを探す。ヨーテリー♂Lv.6が現れ、ブレイブを出す。
「ヨーテリーは捕獲済み、と。ブレイブ、逃げて」
「わかった」
逃げようとするブレイブに対し、ヨーテリーは回り込んで行く手を塞ぎ、ブレイブを睨みつけた。
「むむむ……」
「君、足遅いんだね。Lv.8なのに、Lv.6に負けるなんて」
「うるさい!生まれつきなんだよ」
「とにかくかわして!」
ブレイブはまたも回り込まれた。三度目にして、ブレイブはようやくヨーテリーから逃げることができた。

「ふう……」
汗を拭うブレイブに、スズシロは冷ややかな目を向ける。草むらから出ようとしたとき、2人はチョロネコと目が合った。
「捕まえる!」
ブレイブは体当たりし、チョロネコ♀Lv.4は鳴き声を発する。今度はチョロネコが先制で引っかく。ブレイブの体当たりでチョロネコのHPが程よく減り、スズシロはモンスターボールを出した。
そのとき、ブレイブは1番道路でのことを思い出した。スズシロの投げるボールは力こそあるものの、コントロールが悪く、ヨーテリーに命中したのもまったくの偶然だった。
「スズシロ!モンスターボールはポケモンに当たりさえすればいい。なるべく近づいて、そっと投げるんだ!」
「近づいて、そっとね!」
「俺より前には出るなよ。攻撃が飛んでくるからな」
スズシロはブレイブのすぐ後ろまで近づき、力を抜いて下手で投げた。弓なりのボールはかろうじてチョロネコの尻に当たり、無事捕獲することができた。
「よし!」
「やれやれだ」
「……あれ?」
ポケモン図鑑にメッセージが出ている。
「ニックネームをつけますか……?昨日はこんなの出てたっけ?」
「おおかた、浮かれて気づかなかったんだろ」

スズシロは木の根元に腰を下ろし、辞書を出した。
「……ヒーローにとって大切なのは…………ひらめかないなー。また今度でいいか」
ニックネームはつけず、辞書は開かぬままバッグにしまう。図鑑でチョロネコのステータスを確認し、ヨーテリーとブレイブのページも見る。スズシロはニヤリと笑った。
「へー、ブレイブとこのチョロネコって、素早さが同じだったんだ!レベルは2倍なのに……ほんとに遅いんだね」
「うるさいって言ってるだろ!」


ボールをそっと投げ、ミネズミ♂Lv.5を捕獲した。
「ひらめかないなー」
スズシロは町に戻り、ポケモンセンターで手持ちを回復させた。前途は多難だ。

ポケモン図鑑 見つけた数 6匹/捕まえた数 4匹  おこづかい 2800円  プレイ時間 4:24



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#8
2番道路の草むらで、スズシロは白い物体を見つけた。拾い上げる。
「傷薬だ。新品みたい……警察に届ける?」
「トレーナーが落とした道具は、拾った者が使っていい決まりだ。ありがたくもらっておけ」
「じゃあ、いただき!」


少年が来た。キャップをつばを後ろにしてかぶり、タンクトップを着、ハーフパンツをはいている。
「トレーナーとトレーナーの目が合うってことは……
有名な決まり文句の前半分だ。スズシロはその意味を理解し、後ろ半分を返した。
「ポケモン勝負の始まりさ!」
2人は距離を取り、ボールを投げる。スズシロはヨーテリー、少年はミネズミ♂Lv.7だ。
「ヨーテリー、体当たり!」
「キャン!」
ヨーテリーは睨みつけるを受け、勇ましく体当たりする。だが、ミネズミにはあまり効いていない。
「仕方ないか。向こうのほうがLv.3も高いし。がんばったね、ヨーテリー!」
ヨーテリーを戻し、次のボールを投げる。
「後はお願い、ブレイブ!」
「おおっ!」
ブレイブはミネズミの体当たりを受け止めて水鉄砲を放ち、噛みつく攻撃を受ける。2発目でミネズミを倒した。ヨーテリーはLv.5になり、かぎ分けるを覚えた。スズシロの勝ちだ。
「よしっ!」

道沿いのところどころにトレーナーがいる。皆スズシロと同じかやや下くらいの歳の少年や少女で、さして強くなく、ポケモンたちのレベルは順調に上がっていく。ヨーテリーはLv.8、ミネズミはLv.6になり、それぞれ噛みつくを覚えた。
小高い丘に上ると、木々の向こうに街並が見えた。サンヨウシティはもうすぐだ。落ちていたモンスターボールと傷薬を拾い、下に下りる。


背後から駆ける足音、そして声がした。
「スズシロったら、スズシロ!」
「ベル!」
「ねえねえ!ポケモン勝負しようよ!新しく捕まえたポケモンもちょっと強くなったし!」
「いいよ!こっちは、かなり強くなってるけどね!」

「じゃ、始めるよ!」
「うん!」
ボールを投げる。スズシロはミネズミ、ベルはヨーテリー♀Lv.6だ。
「新しく覚えた技、試してみるか。ミネズミ、噛みつく攻撃!」
「キャッ!」
ミネズミは大きな前歯で噛みつく。ヨーテリーは怯んでしまい、動くことができない。
「き、気合い入っちゃうよ!あたしもポケモンも!」
ベルの言葉とは裏腹に、ミネズミの連続での噛みつく攻撃に、ヨーテリーは身動きが取れない。
「その調子!」
倒れる寸前、ベルは傷薬を使い、ヨーテリーのHPを回復させた。噛みつくで畳みかける。ヨーテリーを倒し、ミネズミはLv.7になった。
「よーしっ!次はこの子で!」
ベルはポカブ♂Lv.7を出した。噛みつく攻撃に対し、怯むことなく鼻の穴から火の粉を噴く。ミネズミは噛みつき、ポカブは体当たりする。ダメージはポカブのほうが大きい。
「うわわわ……もしかしてピンチ!?」
ミネズミが噛みつき、ポカブはついに気を失った。
「やった!」
「うわあ……勝てなかったあ……」

「ふわあ。やっぱり強いんだね!スズシロ」
「ベルもなかなかだったよ!」
「あたしも負けないようにポケモンを育てるね!じゃあ、バイバーイ!!」
「じゃあねー!!」
ベルは手を振り、もと来たほうへ戻っていった。

『ここはサンヨウシティ サンヨウとは三つ並ぶ星のこと』
街の規模はカラクサタウンよりもさらに大きい。雪の多い地方から移住してきた人々によって開かれ、その名残で建物の入口は道路よりも高くされ、階段がつけられている。
スズシロはポケモンセンターに入り、勝負で疲労したポケモンたちを回復させた。
チョロネコをパソコンに預けることにする。誰かのパソコンに接続し、出入口にチョロネコのボールを入れる。ポケモンはボールごとデータ化し、自分専用のボックスに格納される。

『サンヨウシティポケモンジム リーダー・…… トライアルトライアングル』
ゲートのディスプレイに映っていた、洒落たレンガ造りの建物だ。レストランらしく、上から大きなスプーンのオブジェが下がっている。入口に白髪交じりの男が立っている。サングラスをかけ、ワイシャツにネクタイをし、茶色のズボンをサスペンダーで止めている。
ポケモンとトレーナーの修練を目的とした施設・ポケモンジム。その長であるジムリーダーに挑戦し、勝利して実力を認定されることが目標となる。ブレイブが言う。
「おい。いきなり挑戦するつもりじゃないだろうな?ジムリーダーはそこらのトレーナーよりもはるかに強い。情報を集めるんだ」
「わかったよ」


「じゃあ、ここから」
『ポケモンのために学ぶ トレーナーズスクール』
ポケモントレーナーのための学校だ。午後の授業が終わり、教室の生徒たちは帰り支度をしている。
「ここではポケモンの基礎的な知識が学べるようだ。お前も勉強していったほうがいいんじゃないか?」

「必要ないよ。だって私、強いから!」

スズシロは黒板の前に立つチェレンを見つけた。
「ポケモンが毒を受けると、戦っている間どんどん体力が減る。ただし、体力が減るのは戦っているときだけ、ね……」
「チェレン!」
「やあ、スズシロ。ジムリーダーを探しに来たのかい?」
「ジムリーダー?違うけど?」
「トレーナーとして強くなるなら実戦が一番だよ。そういう意味では、ジムリーダーに挑むのがベストだけどね。ところでさ、スズシロ。僕と勝負してくれないか。勝負のとき、どれだけ道具が大事か試したいんだ」
「いいよ、相手してあげる!連戦連勝の私がね!」
モンスターボールを取り出した2人を見て、生徒たちが集まってきた。

「さて、道具の効果がどれほどか……あるいは道具なしでどれだけ戦えるか、試すか。もちろん室内での勝負、荒らすことなく戦うよ」
「さあ、来い!」
スズシロはボールを投げ、チェレンは持ったまま開く。スズシロはヨーテリー、チェレンはツタージャ♂Lv.8だ。ツタージャは肩口からつるを伸ばし打ち、ヨーテリーは噛みつく。つるの鞭だ。チェレンがつぶやく。
「必ず当たる技、先に攻撃できる技。色々あるよね」
つるの鞭と噛みつくで削り合い、互いにHPが半分を切った。ツタージャは持っていた青色の丸い木の実を出した。
「オレンの実!」
ツタージャはそれを食べ、HPを回復した。その直後、ヨーテリーもくわえていたオレンの実を食べて回復した。
「なんで!?ヨーテリーには何も持たせてないのに!?」
ヨーテリーが噛みつき、ツタージャが怯む。これで差がついた。ヨーテリーはつるの鞭を受け、噛みつくでツタージャを倒した。
チェレンはチョロネコ♂Lv.8を出した。
「ポケモンにどの道具を持たせるのかは大事だね……」
チョロネコは噛みつく攻撃を軽くあしらい、鳴き声でヨーテリーの攻撃を下げる。
「効いてない!?……それなら、ブレイブ!」
スズシロはブレイブに替える。チョロネコは猫の手を使った。前足からつるが伸び、ブレイブを打つ。
「なにこの技……!?」
スズシロは困惑し、チェレンはほくそ笑む。ブレイブは引っかく攻撃を受け、水鉄砲を放つ。水流は急所を捉え、チョロネコは倒れた。周囲から歓声が上がる。ブレイブとヨーテリーはLv.9になった。
「どう?何かわかった?」
「……なるほどね!君に負けるとは、まだまだ未熟だね」
「なに……それ……」

「やはり道具を使いこなすのは大事だね。そうだ、スズシロ。この木の実をあげるよ」
チェレンは袋からオレンの実を3個出し、スズシロに渡した。
「……」
「ポケモンに木の実を持たせておけば、戦って体力が減ったとき、勝手に食べてくれる。もっとも、傷薬のように人が作った道具は、持たせておいても使えないけどね。じゃ、がんばってよ」
チェレンは眼鏡を直し、何事もなかったかのように再び黒板に向かった。スズシロはその言いざま、態度、すべてが気に入らなかった。
「バン!」
スズシロは黒板を叩いた。チェレンは驚き、彼女を見た。
「チェレン!私、これからジムに挑戦してくる!ジムリーダーに勝って、私の実力を見せつけてあげる!!」

チェレンは生徒からモップを渡され床を拭き、スズシロはポケモンジムへ走る。ブレイブは何も語らない。

ポケモン図鑑 見つけた数 6匹/捕まえた数 4匹  おこづかい 4636円  プレイ時間 5:23

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