P‐LOG ダイヤモンド編
#45 |
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彼女はマントのフードを深々と被り、歩き出した。カミオ(ペラップ)も後をついて来ている。雪は膝まで積もり、歩みを鈍らせる。道はあってないようなものだ。タウンマップのナビゲーションを頼りに先に進む。
積雪の上に、山型をした白い物体が点在している。何かと思って近づくと、それは伸び上がり、2つの目を瞬かせた。図鑑を確認する。名前は「ユキカブリ」、卵型をした二つ足のポケモンで、上半身は白、下半身は茶色で、腕が緑色をしている。
ロネ(グレッグル)を出す。急にあられが降り出した。ロネが不意打ちを仕掛け、ユキカブリは氷のつぶてを飛ばした。何もせずとも、ロネのHPはじわじわと減っていく。氷タイプ以外のポケモンは、あられによりダメージを受ける。あまり時間はかけられない。ボット(ハガネール)に替えて竜の息吹で麻痺させ、捕獲した。あられは止み、元の雪に戻った。
彼女の前に、しっかりと防寒着を着込んだ女が現れた。エリートトレーナーだ。
「いつ呼び止められてもいいように!いつでも応えられるように!それがトレーナーの心構え!」
女はゴルダックを繰り出した。ロネは瓦割りを見舞い、ゴルダックは水の波動を放った。ゴルダックは大ダメージを受け、逆にロネはHPを回復させた。ロネの特性は「乾燥肌」 ―― 水タイプの技を受けたとき、HPが回復するのだ。
「これは礼を言うべきか」
ロネはにっと笑い、瓦割りでゴルダックを倒した。レビアたん(エンペルト)の波乗りでポニータとウソッキーを倒し、終了だ。
スキーヤーの黒い猫型ポケモン・ニューラを倒し、少し歩くと、丸太造の建物が見えてきた。
「『ロッジ雪まみれ』 暖かいベッドあります」
雪を払い、暖を取る。ここに来るまでに何人かと戦い、学習装置を持つバッサ(ルカリオ)とカミオのレベルは順調に上がってきている。ただ、問題もある。それは主力のうち、連れているレビアたん、ハル(ムクホーク)、ロネの3匹のみのレベルが上がってしまうことだ。チームとしてのバランスを考えれば、メンバー間のレベル差は小さいほうが望ましい。
彼女はハルの空を飛ぶを使い、ハクタイシティに戻った。ポケモンセンターでハルとロネを預け、オリア(レントラー)とアロス(ドーミラー)を引き出す。そして、再び雪原へと向かった。
217番道路に入り、雪は激しい吹雪に変わった。空も地も木々も、全てが白く染まる。距離感、方向感覚が狂い、自分がどこにいるのかさえもわからなくなりそうだ。
そんな中でも、トレーナーは勝負を挑んでくる。1人倒し、2人倒し……彼女とポケモンたちは少しずつ、しかし確実に消耗していった。
いくら歩いても、風景に変化がない。日も暮れてきた。突然、タウンマップの画面がふっと消えた。あまりの寒さに、バッテリーが反応しなくなってしまったらしい。
全身の感覚が薄れてきた。方角がわからないため、ロッジに戻ることは難しい。空を飛ぶを使おうにも、ハルはいない。この場でカミオに覚えさせれば、とも思ったが、技マシンのドライブは電源すら入らなかった。手詰まりだ。
目の前を白い闇が覆った……
空は曇、雪は降っていない。彼女は湖のほとりに立っていた。
木にもたれかかって立つ少年の後姿が目に入った。彼女が歩み寄ると、少年は振り返った。ジュンだった。
「なんだよ。おまえが行くの、ここじゃないだろ!」
「いや、リッシ湖には行った後だ。それより、お前、ギンガ団を見なかったか?」
ジュンはけげんそうな顔をした。
「ここはなんにもないぜ!まっ、なにかあってもだいじょうぶさ。オレにはたのもしいポケモンたちがいっしょにいてくれるし、なによりオレは強いからな!」
「ペラップ〜」
彼女は目を開けた。吹雪の中、声のするほうへ進むと、明かりのついた小屋が見えてきた。カミオはその軒下で休んでいた。
「あたしを導いてくれたのか。お前だって寒さは苦手だろうに……フッ、たまには役に立つんだな」
「ヤクニタツンダナ、ダナ〜」
中には先客の山男がいた。ストーブで体を温め、男が入れてくれた熱い紅茶をすする。生き返った心地だ。ポケモンたちを回復させ、タウンマップも忘れず充電しておく。
彼女が手招きをすると、真っ先にバッサ、そしてオリアが来た。レビアたんとアロスは顔を見合わせたが、彼女が恐ろしい顔で睨むとおとなしく従った。彼女は皆を抱き寄せ、毛布を被った。
ポケモンたちと寄り添って眠る彼女の顔は安らかだった。梁に留まっていたカミオはそれを見届け、目を閉じた。
翌朝 ―― 外は相変わらず吹雪いている。タウンマップを見る限り、道程の3分の2ほどは来たようだ。男に礼を言い、小屋を後にする。すぐ裏手で、四角いプラスチックのケースを拾った。秘伝マシン08「ロッククライム」と書かれている。
「いつでも薄着でドッセーィ!」
空手着1枚の男が現れた。足は裸足だ。この環境下でなぜそんな格好をしていられるのか、理解に苦しむ。男はグレッグルを繰り出した。アロスを出す。悪巧みで特攻を高めるグレッグルを、アロスは神通力で倒した。
次はゴーリキー対オリアだ。オリアはスパークを、ゴーリキーは地獄車を仕掛けた。両者ともに大ダメージを負ったが、技の反動を受けたゴーリキーが倒れた。
最後はレビアたんがイワークの尾を叩きつける攻撃を受け止め、波乗りで押し流した。
「ヘックション!厚着して出直すか。ドッセーィ!」
男は大きなくしゃみをし、鼻水をすすった。やはり無理があったらしい。
トレーナーを倒し、道なりに西へと進む。ようやく吹雪が治まってきた。
「この先、エイチ湖」
案内板の横では、見張りのギンガ団員2人が立ち話をしていた。横目に見つつ、通り過ぎる。彼女は足を速めた。
「ここはキッサキシティ 氷きらめく冬の町」
町に着いた。粉雪が舞い、家々は白く染まっている。船が泊まる港を抜け、ポケモンセンターへと向かう。
これまでの戦いで、ポケモンたちのレベルは十分に上がっている。さあ、ジム戦だ。
お小遣い831874円 ポケモン図鑑123匹(捕まえた数113匹) バッジ6個 プレイ時間602:10
#46 |
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「ペラップ〜」
キッサキシティポケモンセンター ―― 彼女はボールからキメリ(パチリス)ら、パチリス4匹を出した。彼女が目配せすると、パチリスたちはカミオを取り囲んだ。頬の黄色い電気袋から火花が飛ぶ。
「ここでおとなしく待っていろ。焼鳥になりたくなければな」
「ナケレバナ、バナ〜」
彼女はポケモンセンターを出、ジムに向かった。カミオはそれを見送り、寂しげにぽつりと言った。
「……ガンバッテ、シィ」
「キッサキシティポケモンジム リーダー・スズナ ダイヤモンドダストガール」
レビアたん(エンペルトLv.37)、オリア(レントラーLv.36)、アロス(ドーミラーLv.36)、ロネ(グレッグルLv.36)、アスタ(フワンテLv.36)、バッサ(ルカリオLv.36)の6匹で挑む!
屋外ほどではないものの、室温はかなり低い。それもそのはず、床は分厚い氷の板でできていた。おなじみのサングラスの男も厚手のコートを着込んでいる。
「オーッス!未来のチャンピオン!このジムのあちこちに置かれている邪魔な雪玉!氷の上を滑って勢いをつけてぶち壊せ!そして、ここのジムリーダーは氷タイプの使い手!燃える炎の技で氷を融かしてやれ!!とにかく気合だな!気合で体ごとぶつかれーッ!」
ジム内は正方形を重ねたように階段状に窪んでおり、水平面を急な斜面が繋いでいる。その所々には直径1mほどの雪玉が置かれ、それを壊さない限り、最上段のジムリーダーにたどり着くことはできない。当然、ジムトレーナーもいる。
予想していた通り、このジムが専門とするタイプは氷。防御面に劣るカミオのためを思えば、無理にでもメンバーから外したのは正解だった。
まずは入口から奥に向かって滑り降り、手刀で一気に雪玉を壊す。1人目のトレーナーに捕まった。
「キッサキの雪の中、ひたすら勝負に明け暮れている俺たちの強さ、見せてやろう!」
男はユキカブリを繰り出した。バッサを出し、発勁一撃で片付ける。ジムリーダーの少女は興味深げに戦いを眺めつつ、親指をせわしく動かし、携帯電話のキーを押していた。オフィシャルブログの更新作業だ。
縦3列のうち、左右の2列をクリアした。中央の1列は階段でブレーキがかかるため、横方向から1個ずつ壊していく。ジムトレーナーが使うポケモンは、氷タイプのみならず、水タイプも多い。これも想定の内だ。オリアやアスタに任せる。
進路上の雪玉は全て壊した。彼女は中央の階段を上り、ジムリーダーと対面した。
少女はどこにでもいる普通の女子高生といった感じだ。長い黒髪を2つに分けて縛り、前髪をピンで留めている。上は白いシャツにスカイブルーのリボン、下はライトブラウンのミニスカートにボーダー柄のソックス、腰にはカーディガンを巻いている。
少女はにっこりと笑い、携帯のカメラで彼女を撮った。液晶画面には不機嫌な顔が映し出された。
「スズナに挑戦?」
「でなければ、わざわざこんなところには来ない」
「いいよ!強い人、待ってたし。だけど、あたしも気合入ってるから強いよ?ポケモンもオシャレも恋愛も、全部気合なのッ!そこんとこ見せたげるから、覚悟しちゃってよね!」
「気合気合とうるさい奴だ。少し頭を冷やすといい。お前の敗北でな」
ジムリーダーのポケモンは4体、スズナはユキカブリLv.38を、彼女はバッサを繰り出した。ユキカブリの特性・雪降らしにより、氷のバトルフィールドにあられが降り始めた。
「バッサ、波導弾!」
彼女の指示にバッサは小さくうなずき、右脇に両手を構えた。掌の間に青白い小さな光球が生まれ、大きく膨れ上がる。バッサは腕を鋭く突き出し、光の弾丸を撃ち放った。直撃を食らったユキカブリは吹き飛び、気を失った。
それはほんの一瞬の出来事だった。体内を廻る生体エネルギー・波導を練り、放つ格闘の技、「波導弾」だ。
スズナはチャーレムLv.40を繰り出した。アサナンの進化形で、体色は赤系に変わっている。格闘技で鋼の弱点を突こうというのだ。彼女が出したのはアロスだ。チャーレムはビルドアップで攻撃と防御を高め、一撃を加える機会を窺う。
だが、それを許すような彼女ではない。アロスは妖しい光を放ち、チャーレムを混乱させた。体を高速回転させる。自滅するチャーレムの虚を衝き、ジャイロボールで倒した。スズナの顔から余裕が消えていく。
次はニューラLv.38、彼女はロネだ。挑発するニューラを、ロネは瓦割り一撃で倒した。
「とっておきのポケモンで相手してあげるんだから!」
試合開始からわずか10分 ―― スズナは唇を噛み、最後のボールを投げた。大柄なポケモンが姿を現す。ユキカブリの進化形・ユキノオーLv.42だ。全身が白く、手と足だけが緑色をしている。彼女はレビアたんを出した。
ユキノオーが突進する。ユキノオーはレビアたんの肩口をめがけ、両拳を猛烈な勢いで振り下ろした。意識が飛び、衝撃で氷の床が砕け散る!ウッドハンマー、凄まじい威力だ。レビアたんはユキノオーの両腕を掴み、頭突きを食らわせた。
距離を取り、睨み合う。残りHPはレビアたんが4割、ユキノオーが7割ほど、ダメージの差は誰の目にも明らかだ。スズナの顔に余裕が戻った。
が、それも束の間のことだった。ユキノオーが麻痺を負っていたのだ。レビアたんの攻撃はただの頭突きではなかった。秘密の力を込めていたのだ。彼女は笑みを浮かべた。
「……時間も限られていることだ。終わりにしよう」
レビアたんは体の自由が利かないユキノオーに歩み寄り、構えた。引いた右翼のエッジが金属光沢を帯びていく。技マシンによるレビアたんの新たな技 ――
「鋼の翼」
「ギュアッ!」
体を素早く回転させ、巨大な刃で斬り付ける。ユキノオーはゆっくりと崩れ落ちた。
「すごいんだ!あなたのこと、尊敬しちゃう!うん、なんだかあなたの気合、そういうものに押し切られちゃった。そうだ、これ、あげないと……!」
スズナはグレイシャバッジを差し出した。山型のバッジは氷河をイメージしており、銀色の地に薄い青色が入っている。
「今あげたグレイシャバッジで、ロッククライムの秘伝技が勝負じゃなくても使えるの。あと、これもどーぞ!」
技マシン72「雪雪崩」。直前にダメージを受けると技の威力が倍増する、氷タイプの技だ。
「なんていうか、気合たっぷりな技って感じでしょ!」
「……ん?ああ」
「氷タイプのジムリーダーって、もっとクールな感じでふるまったほうがいいのかな?なんか、そのへん難しくて」
スズナは照れくさそうに言った。何か、妙な胸騒ぎがする……
かすかに爆発音がした。それに気づいたのは彼女だけだった。
「……まさか!」
「おお!シィ!ジムリーダーに勝ったのか!」
彼女は走り出した。男の言葉は耳に入らない。ジムを飛び出し、雪の降りしきる中をエイチ湖へと走る。
柱のジムリーダー認定トレーナーのプレートには、ジュンの名があった。
お小遣い866234円 ポケモン図鑑125匹(捕まえた数115匹) バッジ7個 プレイ時間620:20
#47 |
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湖のほとり ―― そこにあったのは、傷つき倒れ伏したジュン、そして、それを嘲笑う女の姿だった。ハクタイで戦った幹部の女だ。
「!!ちくしょう!ギンガ団めッ!!」
女はブーツのつま先でジュンの顎を押し上げた。
「ふぅーん。もう終わり?あなたのポケモンはまあまあでも、あなたが弱いものね。それでは湖のポケモン助けるなんて無理な話……ポケモンチャンピオンだって諦めたほうがいいわね。それにしても、ここ、寒すぎるわ。トバリのアジトに戻りましょう」
彼女と女の目が合った。
「あら、あなた?ハクタイで会ったわね」
「だったら?」
モンスターボールに手を掛ける。女のスカタンクが煙幕を噴き出し始めた。
「いい?これからギンガ団はみんなのために凄いことをする。だから、ポケモンがかわいそうとか、下らないことであたしたちの邪魔をするの、やめて欲しいわけ。トバリのアジトに乗り込んできても意味ないのよ。では、失礼」
女は煙幕に紛れて姿を消した。ジュンは立ち上がり、無言で散らばったモンスターボールを拾い集める。わかっていたこととはいえ、心が痛む。
「ジュン」
「………………………………そーだよ!ギンガ団相手になにもできなかったんだよ!あのユクシーとかいわれていたポケモン、すごくつらそうだった……」
ジュンは涙ながらに叫んだ。彼が初めて見せる怒りと悲しみが入り混じった表情に、彼女は戸惑った。
「……元々、間に合わなかったのだ。お前のせいでは」
声を張り、その言葉を遮る。
「オレ、強くなる……なんか、勝ち負けとかそーゆーのじゃなくて、強くならないとダメなんだ……」
ジュンは力なく歩き出した。その痛々しい後姿は次第に小さくなっていく。
……そうだ。誰が何と言おうと、自らが選んだ道を突き進む。お前はそういう奴なのだったな……必ず戻って来い!ジュン!
町に戻り、ポケモンたちを回復させる。パチリスたちをボールに戻し、カミオを解放しておく。彼女はポケモンセンターを出、ハルと共に雪空へと舞い上がった。
トバリシティに降り立った。もう夜だ。長い階段を上ると、巨大なトバリギンガビルが威容を現した。
問題はどうやって内部に侵入するかだ。中心部に続く扉は厳重にロックされている。錠はカードキーを使うタイプだった。適当な団員を締め上げてキーを譲ってもらおうと辺りを見回すと、ちょうど良く1人でパラボラアンテナを見上げる男が目に入った。
「おい、お前」
「どうだ!このアンテナ!詳しいことは知らないが、とにかく凄いアンテナだ!」
彼女の顔を見るなり、男の顔から血の気が引いた。
「やや!お前は!お前は俺を覚えていなくても、俺はお前を覚えている!お前のせいでピッピは取り上げられて……相方は田舎に帰り……」
「探しているものがある」
「知らない!俺は倉庫の鍵なんて知らないぞ!」
男は何かを放り投げ、脱兎のごとく逃げ去っていった。それを拾う。使い込まれた金属製の鍵だ。
階段を下りてぐるりと迂回し、下にある倉庫に来た。中は薄暗い。錆び付いたドアを鍵で開け、再び閉じられないよう、挿したまま折っておく。彼女は奥にあった階段を下りていった。
照明がこうこうとしている。しばらく直線が続いた後、曲がり角で団員に出くわした。相手が子供とあなどった男は、ニヤニヤと笑いながら語呂の悪い替え歌を口ずさんだ。
「迷子の、迷子の、ポケモントレーナー!」
男はゴルバットを繰り出した。オリアを出す。オリアはゴルバットにスパークを仕掛け、そのまま男にのしかかった。
気絶した1人と1匹を物置に押し込んでおく。カードキーを手に入れるまでは、静かに動かねばならない。
突き当たりの階段を上る。壁には「1F」とある。方角と歩いた距離からして、ビル内に入ったようだ。
団員らの目をかいくぐって進むと、床にマンホールの蓋ほどの大きさの丸いパネルが2枚あった。通称「ワープパネル」、1人用の移動装置だ。右のパネルの上に乗るとそれは下降し、長方形のチューブの中を滑るように横方向に移動した。
パネルが上昇する。出た先はただの倉庫だった。そこにあった技マシン49「横取り」をバッグにしまい、元の場所に戻る。今度は左のパネルに乗った。
パソコンのある小部屋に出た。次のパネルに乗る。階段を上っては下り、休憩室をテーブルの陰を伝って通り抜ける。
階段を下りる。地下1階、また倉庫だ。技マシン36「ヘドロ爆弾」を見つけた。他にめぼしいものはないかと歩いていると、コンテナとコンテナの隙間に1枚のカードが落ちているのを見つけた。「G」のマークが入ったプラスチック製の磁気カード ―― 探していたカードキーだ。
来た道を戻り、小部屋でパソコンに向かう。彼女がキーボードに触れると画面が次々と変わり、セキュリティシステムの管理画面が表示された。指は動かしていない。システムを無効化し、マスタパスワードを変更しておく。
なぜそんなことができたのか、彼女は気にも留めていなかった。
「……フッ、フフフフ」
もう、こそこそと隠れる必要もない。後は存分に駆逐するのみ ―― 彼女はこみ上げる笑いを抑えることができなかった。
「さあて、素晴らしい時間の始まりだ」
お小遣い869114円 ポケモン図鑑126匹(捕まえた数116匹) バッジ7個 プレイ時間625:31
#48 |
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爆発が起き、通路に煙が充満していく。警報は鳴らず、スプリンクラーも防炎シャッターも作動しない。駆けつけた団員たちは煙の中に少女の影を見たが、次の瞬間、爆風で吹き飛ばされていた。
「破壊し尽くせ!!」
マントを翻し、彼女は悠然と進む。電撃が走り、光弾が放たれる。ポケモンを出し、応戦を試みた団員も、一瞬にして倒された。
破壊音と悲鳴が入り混じる ―― ギンガトバリビルは、正に地獄と化していた。
一度外に出、今度はビル正面から堂々と侵入する。カードキーをリーダに通して扉を開け、階段を上る。
2階でゴルバット、ニャルマーを倒し、ワープパネルに乗る。3階への階段を上った先で待ち伏せに遭った。グレッグル、スカンプーを片付け、先に進む。団員らの必死の抵抗も、彼女の歩みをわずかに緩めただけだった。
最上階に来た。扉を開ける。無機質なモノトーンの部屋の中央には大きな机があり、独特な白と黒のジャケットを着た男が指を組んで座っていた。
その顔を見た彼女はわずかに眉を動かした。テンガン山、カンナギタウンで会ったアカギという男 ―― 彼こそがギンガ団のボスだったのだ。ピリピリとした緊張感が漂う。
「……そうか。君が報告にあった、ギンガ団に逆らっているポケモントレーナーか。こんな子供とは思わなかった。ギンガ団の幹部たちがてこずらされた、と聞いていたのでね」
「ああ、あの口ほどにもない連中のことか。手下があの様では、頭目の程度も知れるというものだ」
アカギは彼女の挑発に表情を変えることもなく、椅子に深くもたれかかった。
「ここに来た理由はわかる。エムリット・アグノム・ユクシーの3匹のポケモンのことだろう。あのポケモンたちはもう必要ない。君が引き取ってくれるなら、処分する手間が省ける。自由にしたまえ」
「処分、だと?」
「だが、その前に、ギンガ団にたてつく君の力、見せてもらいたい」
椅子に座ったまま、ボールを開く。現れたのはヤミカラスLv.40だ。彼女はバッサを出した。ヤミカラスはバッサの周りをジグザグに飛び、攪乱を謀った。しかし、スピードはさしてない。バッサは波導弾を放ち、あっさりとヤミカラスを仕留めた。
次はゴルバットLv.40、この限られた空間では、翼開長2m強の大コウモリは格好の的だ。オリアを出し、スパークで落とした。
最後はニューラLv.43だ。レビアたんで迎え撃つ。ニューラは素早くレビアたんの懐に飛び込み、冷凍パンチを繰り出した。レビアたんはそれを受け止め、鋼の翼で斬り捨てた。全て一撃、圧倒的だ。
「他愛ないな」
「面白い。そして興味深い」
アカギは平然と言った。薄笑いすら浮かべている。
「なるほど、強い。そして、その力の源は、ポケモンへの優しさというわけだ」
「かもな」
「……もったいない。そんなものはまやかしだ。見えないものは揺らぎ、消えてしまうものなのだ。死んでしまえば、無くなるものだ。だから、私は全ての感情を殺した……まあいい。君とはわかりあえないだろう。ただ、一人で来た君のその強さと勇気を認め、これを進呈しよう」
引き出しから紫色のボールを取り出し、机の上に置く。
「そのマスターボールは、どんなポケモンでも捕まえる究極のモンスターボール。だが、この私には必要ない。君たちトレーナーのように、ポケモンをパートナーとはしない。他のギンガ団のように、ポケモンを道具にもしない。私はポケモンの力を、私自身の力とする」
彼はおもむろに立ち上がり、奥の通路に向かって歩き出した。
「何をするつもりだ?」
「湖のポケモンたちを助けるなら、この先のワープパネルに乗るがいい。では、私はテンガン山に向かおう。そう、君と初めて出会った場所……そこから頂上に登り、全てを終わらせる……いや、全てを始めよう」
アカギは通路の先に消えた。今は3匹の解放が先決だ。彼女はワープパネルに乗った。
パネルが上昇する。今までとは違い、薄暗い。何かがぼうっと光っている。近づいて見ると、それは天井に届くほどの大きなガラス製のカプセルだった。中は緑色の液体で満たされ、下部の機械からは大量のパイプやコードが延びている。それは十数基が左右に並び立ち、異様な雰囲気を漂わせている。彼女はその間を抜け、奥の部屋に足を踏み入れた。
パイプだらけの大型の機械を中心に、3つの台が三角形に並んでいる。彼女は顔をしかめた。それぞれには、小さな灰色のポケモンが、その形に合わせて掘られた型に体をはめ込まれている。エムリット・アグノム・ユクシーだ。頭部は分厚いリングで覆われ、表情は窺い知れないが、酷く衰弱しているのは見て取れる。
中央の機械の陰から、リッシ湖で戦った幹部の男が現れた。
「お前……ポケモンを助けるために、わざわざここまで?」
「失せろ」
「……いつものことながら、ボスの考えはわからない。なぜ、こんな子供を自由にさせておくのか……?私たちギンガ団は必要なものを独占し、いらないものは捨てるだけ」
モンスターボールを取り出す。
「まあいい。せっかく来てくれたんだ、ギンガ団なりの持て成しをしよう。それに、湖でやられた、そのリベンジもある」
男はユンゲラーLv.38を、彼女はバッサを繰り出した。
「悪の波動!」
バッサの突き出した右手から黒いエネルギー波が発せられ、ユンゲラーは吹き飛んだ。波導弾とはまた違う、悪タイプの技だ。
ドクロッグLv.40に対し、アロスを出す。ドクロッグは拳のトゲを交差させるシザークロスで斬り掛かった。アロスはそれを耐えて妖しい光を放ち、混乱するドクロッグを神通力で倒した。
ドーミラーLv.38とアロスの同属対決は、アロスが怪しい光で混乱し、ドーミラーが催眠術で眠りに落ちた。レビアたんに替え、波乗りでドーミラーを押し流した。
「……くっ!なぜ、お前はそんなに強い。まあいい。この3匹はお前が好きにしろ……このマシンのボタンを押せば、自由にしてやれる……」
男は機械のコントロールパネルを示した。彼女は拘束器の解除ボタンを見つけ、手を掛けた。
沈黙が流れる。彼女の手はボタンを押す直前で止まっていた。何かが、それを押すことをためらわせていた。
「早くボタンを押して助けてやれ。そのために来たのだろう?」
男の声にはっとし、ボタンを押す。型が4つに割れ、リングが外れた。解放された3匹は空中に浮き上がった。
それぞれはよく似ているが、頭部の色と形が異なっている。黄色く丸いユクシー、ピンクで房が付いたエムリット、青い三角形のアグノム ―― 3匹は彼女を一瞥し、お互い顔を見合わせると、テレポートで姿を消した。
「ボスは3匹の体から生み出した結晶で、赤い鎖を作り出した。それこそが、テンガン山で何かを繋ぎ止めるために必要なものらしい……もっとも、ボスがテンガン山で何をするつもりなのか、私も知らないがな」
彼女の記憶の扉が、今、大きく開こうとしていた。
お小遣い894990円 ポケモン図鑑126匹(捕まえた数116匹) バッジ7個 プレイ時間626:45